防火設備の定期検査について
対象となる防火設備とは?随時閉鎖式とは?
防火設備の定期検査報告について
防火設備の定期検査は、平成28年6月施行の法改正で新たに追加されました。
これまでは、エレベーターなどの昇降機を除くと、一般的な建物では「特定建築物」と「建築設備」の2種類の定期報告が義務付けられていました。(法改正前までは「特殊」建築物と言われていましたが、改正後は「特定」建築物と呼び方も変わりました。)
病院や福祉施設で、防火設備の不備により被害が拡大したと思われる事故が相次いだ為、今回の法改正で「防火設備」を特定建築物の調査から独立させる形となりました。
防火設備の定期検査とは
防火設備は、火炎や煙が縦横に広がらないように、また避難経路となる階段室に入り込まないようにするための重要な設備です。閉まった状態でなければ、その役目を果たすことができません。しかし、建物を使用するにあたって、常に閉まったままでは使い勝手が良くない場合があります。
普段あまり使用されない避難階段であれば、常に閉めておいても問題はありませんが、常に人の往来がある病院やショッピングモールの通路では、シャッターなどの防火設備を閉めておくわけにはいきません。
このような場所では、火災時に自動で閉まるように「煙感知器連動」の防火設備が設置されます。こういった普段は開いていて、火災時に自動で閉まるタイプのものを「随時閉鎖式」といい、常に閉まったままの状態で使用する防火設備を「常時閉鎖式」と言います。
今回、新設された防火設備定期検査でチェックするのは「随時閉鎖式」の防火設備となります。「常時閉鎖式」については、従来通り特定建築物定期調査でチェックします。
なぜ「随時閉鎖式」が対象なのか
随時閉鎖式の防火設備は、普段は開放されていて、いざという時に閉鎖する防火設備です。先程も書きましたが、防火設備は「完全に閉鎖」して初めて役目を果たすものですので、故障や劣化、人為的な障害物等で閉まらない状態になっていると意味がありません。
防火設備は建築基準法で定められた設備であり、法的には建築の領域に入ります。ただ、これまでの特殊建築物の定期調査では、消防点検でチェックする煙感知器や連動制御盤を、建築の専門である建築士等が合わせてチェックするのには、少し無理がありました。実態としては、きちんとした作動調査がなされておらず、防火設備が実際に作動するのか不明のまま利用されている建物が多く存在しています。
それでは消防点検で実際に作動確認をしているのかというと、消防点検では感知器の発報や連動だけを確認するケースが見られます。消防点検で防火設備の作動確認まで実施するところもありますが、初期作動だけで全閉するところまで確認することは稀です。これは何も手を抜いているわけではなく、先に書いたように、防火設備は建築基準法の領域であり、消防法の領域ではないからです。
防火設備の設置そのものが建築基準法の防火区画を根拠にするものでり、本来は、建築基準法の定期報告でチェックするのが筋なのですが、消防設備が絡んでくるため、建築・消防のどちらでもきちんとチェックしていないという、中途半端な状態のままで来てしまっていたのです。
そのような状況の中で、福岡の整形外科火災等の事故が発生してしまい、防火設備の不備が被害を拡大したとした現場検証報告を受けて、行政も定期報告制度の検査内容を見直す事となりました。
検査対象となる防火設備の種類
防火設備には4つの種類があります。
1.防火扉
2.防火シャッター
3.耐火クロススクリーン
4.ドレンチャー
1.防火扉
防火扉は最もよく使われる防火設備で、階段はもちろん廊下などの通路部分といった比較的開口の小さな箇所に設置されています。煙感知器と連動してストッパーが外れ、自動的に閉鎖します。
古い建物(S49年1月以前)では、煙感知器と連動していない「温度ヒューズ式」の防火扉も、随時閉鎖式の防火扉に該当しますので、定期検査を実施しなければなりません。現在では、新たに温度ヒューズ式の防火扉を設置することはできませんので、改修する際には感知器連動タイプに更新しなければなりません。
2.防火シャッター
防火シャッターもよく使われる防火設備ですが、比較的開口の大きなホールなどの吹き抜け部分、ショッピングモールの通路、エスカレーター周りなどの設置されています。また、防火扉を設置するスペースがない場合にも、シャッターで対応しているケースもあります。
防火シャッターは、完全に閉鎖するまで降下させます。複数のシャッターで防火区画を形成する場合は、一斉にシャッターが降りてきますので安全対策も重要です。また復旧に時間がかかりますので、検査時間帯の調整なども必要になります。
防火シャッターは重量があり、挟まれると危険なため、平成17年12月以降は「危害防止装置」の設置が義務付けられています。これは、シャッターの座面に接触すると自動で一旦止まり、障害物がなくなると再降下する仕組みの機構です。万が一故障や部品の劣化等で急降下した場合、非常に危険です。
3.耐火クロススクリーン
耐火クロススクリーンも、防火シャッターと同じく開口部の大きいところによく使用されます。シャッターに比べて重量が軽いため扱いやすくなっております。
また、比較的小規模な建物でも、エレベーターの昇降路に使用されているケースがあります。このような場合も、竪穴区画を形成するものとなりますので、防火設備検査が必要となります。
4.ドレンチャー
ドレンチャーは、天井にスプリンクラーのヘッドのようなものがついており、そこから水を噴射し「水幕」を形成することで、防火区画を形成するものです。地下鉄の構内や空港、地下駐車場などの限られた施設等に設置されていますので、設置数としては少ないでしょう。
また、水が大量に噴射されるため実際の検査では、事前の調整はもちろん、加圧送水装置やタンク・ポンプ類もチェックしなければなりませんので、専門の事業者との連携が必要です。
防火設備検査では、上記4つの防火設備が感知器連動で作動するか確認しますが、その信号を受け取る受信盤・連動制御盤もあわせてチェックします。こういった盤には、必ず非常用のバッテリーが接続されており、電源消失時にもきちんと作動するようになっています。しかし、バッテリーの残量がなかったり、感知器の接続不良などで信号が送られない場合もありますので、こういった部分も確認しなければなりません。
報告時期
対象となる建物は、今回の法改正で「政令」により全国一律で定められました。特に、高齢者や障がい者の方が利用する施設では、対象規模が小さな建物でも対象となっていますので、これまで定期報告の対象でなかった建物でも、対象となるケースがたくさん出てきています。
防火設備の定期検査は、災害時に人命にもかかわる重要な設備であるため、「毎年1回」の報告が必要となります。平成28年6月から施行されていますが、経過措置としまして平成28・29・30年度の3年間において1回目の報告を実施する形でスタートし、現在(令和2年)では、すでに経過措置期間が過ぎていますので、継続して毎年の実施報告が必要となります。
報告期限は、特定建築物や建築設備の報告期限と同じで、大阪府では例年通り12月25日となっています。
防火設備の検査は、専門建築士へ
新たに定期報告の種類が1種類増えたため、建物の維持管理にかかる費用も増えることになりますが、建物が竣工してから一度も防火設備を動かしていないというケースもよくあります。この機会に現状を把握して頂き、適切な維持管理につなげて頂ければと思います。
特定行政庁から定期報告の通知が届いていないので、「対象外と思っていた。」「やらないくていいのでは?」といったことをよく聞かれます。法改正で新しくできたこともあり、行政側もすべての建物の防火設備の設置状況を把握できているわけではありません。通知が届いていないケースでも対象となるケース、通知が届いていても対象外となるケースの両方があります。いずれの場合であっても、図面での確認及び現地確認を資格者に依頼し、設置状況に応じてきちんと対応することをお勧めします。(※対象外となる場合「対象外届」を提出いたします。)
弊社は、小規模な建物から中規模程度の建物を多く定期調査・検査いたしております。特定建築物や建築設備の定期報告と合わせて、防火設備の定期検査を実施することで費用を抑えることもできますので、一度ご相談下さい。
弊社では、建築士と消防点検資格者が協力し、防火設備の定期検査を実施しています。消防点検資格者が煙感知器や連動制御盤を操作し、建築士が防火扉の作動状況や運動エネルギー測定などを行い、建築と消防の両方の領域をしっかりカバーして現地検査・報告書類作成を行っています。